傘を忘れた午後 屋上は風が強くて 笑い声の嘘も 譜面の中に消える 日食を待つ間 乳房の指紋を数えて 糸電話からおとぎ話が 聞こえたふりをする 見下ろした草むらに冷蔵庫が一つ 誰かが青いクレヨンで 落書きを描いた 公園の砂場を掘り続ける子ども 埋めた舟を探して 旅に出かけた ふいに触れられた髪に めまいがして私は 目を閉じて 踊り場で 10まで数えた
私が泣いたのは、空が赤かったからだ 空が赤かったからだ 雨なら健やかに、なんでもない顔をして、さよならと言えたのだ 晴れていたらどうだっただろう それでも色が青かったなら、私は泣かなかった 私は泣かなかった 朝ならたぶん会うことさえしなかっただろう 夜なら、闇に紛れて、それで終われた 昼は空が青いから、雨が降るから、雲が日を隠すから、雪が降るから、 だから、きっと大丈夫だった けれど空の色は赤かった 赤かったから、私は泣いてしまった たったそれだけだ 空が赤かったから、私は泣いたのだ 本当にそれだけだ ほかに理由なんてない、ない、ない 私が泣いてしまったのは、空が赤かったからだ 青でも黄でもグレーでも緑でもなく、 空が赤かったからだ 空が赤かったからだ 空が赤かったからだ
降りしきる 水無月の甘雨は 馨しき土の匂(かほ)りを湧き立たせ 人肌に馴染んだ そよ風も タチアオイの香(かざ)を 心地よく 辺りに靡かせている 夏鳥の群れが 潤んだ羽衣を 南風で濯ぎ 森羅のかげろいで 旅立ちを目論む頃 僕らは 夏の訪れが傍(ちか)いことを悟(し)る